「ビジネスに役立つビートルズの交わした会話」パート7
ビジネスでは現場で仕事に取り組む人と、全体を監督する人のいる場合も多いと思いますが、ロックバンドであるビートルズも同様です。
ドキュメンタリー映画『ザ・ビートルズ:Get Back』では、スタジオで楽器を鳴らし、歌いながら曲を仕上げていくビートルズと、スケジュールや選曲も含めてプロジェクト全体を監督するジョージ・マーティンがいます。マーティンはデビュー・アルバムからビートルズのプロデューサーを務め、彼らにとっては先生のような存在ですが、この映画の時点で世界一のバンドになっていたビートルズは、容赦なく彼に言いたいことをぶつけます。スタジオ内で楽器の音がよく聞こえないと文句を言うビートルズに、マーティンがどう対処していくかみてみましょう。
「ピアノさえも聞こえない」と怒るビートルズに、マーティンは以下のように現状の問題点を明らかにし、いったん前の状態に戻そうと提言します。
“Well, I’ll tell you what, you’ve got all your instruments ~. Let’s go back to how we were yesterday.”
「まあ聞きなさい。全部の楽器が~になっている。昨日の状態に戻ろう」
“I’ll tell you what”は、提案をする際などに、聴き手に注意を向けさせるのに有効な言い方です。会議などで会話が煮詰まった時に新たな見解を提示する場合や、自分の意見を強調したい場合に“I’ll tell you what”で始めると効果的です。
また、 “Let’s”(~しよう)と提案し、 “how we were”(以前の状態)のように “we”(我々)を使い、みんな同じプロジェクト・メンバーであることを印象づけています。
もしこれが “Go back to how you were yesterday.”であれば、命令口調になってしまいますよね。このように主語の選び方はとても大切です。
それでも文句を言い続けるビートルズに対し、
“I’ll fix you lads, I’ll fix you.”
「直すから、直すから」
とマーティンは、彼がビートルズによく使う愛称 “lads”(ボーイズの意味)で呼びかけながらなだめます。
そして、他のスタッフに昨日の状態に戻すように命令しつつ、ビートルズの気分を変えさせる意味もあるのか「まず~したら?」と以下のような応急措置を提案します。
“Why don’t you have the piano open for a start? It’ll help you anyway to begin with.”
「まずピアノを開けてみたら?手始めに良くなるはず」
マーティンとポール・マッカートニーがグランドピアノの屋根を開け、ジョン・レノンはマーティンに “Thank you, George.”とお礼を言い、マーティンは “You’re welcome.”(どういたしまして)と返します。親しき仲にも礼儀ありで、職場の人間関係を円滑にするにはこういった一言が大事なのだと気づかされます。
著書に『ビートルズは何を歌っているのか?』『クイーンは何を歌っているのか?』『ルート66を聴く-アメリカン・ロード・ソングは何を歌っているのか-』がある。洋楽歌詞解説者としてNHK-FM「ディスカバー・クイーン」等に出演。フジテレビ系「関ジャニ∞クロニクル」(英会話伝言ゲーム等)の製作・英語監修、関ジャニ∞「All You Need Is Laugh」の歌詞監修と特典映像の制作・出演もしている。上智大学文学部英文学科卒。米国10年、中国4年滞在。